プロバイダー会員からの質問にお答えします。

Q. 脳性まひの5歳児にWATSUをするにはどんなことに気をつければいいですか?

脳性麻痺に対するWATSUは、海外の事例で以下のような効果が報告されています。

  • 全体の緊張の緩和
  • 関節可動域の拡大
  • 睡眠の改善
  • 精神状態の鎮静

しかし、このような特定の「効果」を狙ったセッションをするには
専門的な知識・技術が必要です。

特定の効果を狙うよりむしろ安全のため、
少しでも水の中を楽しんでもらえるためのアドバイスをします。

脳性麻痺の方は全身の筋肉が痛々しいほど緊張しています。お風呂に入るという「普通」のことも大変なイベントです。
WATSUのように溺れる心配もなく身を委ねて水中に浸かるという経験は、
それだけでも肉体的・精神的に大きな意味があります。

最初のセッションはWATSUをしない

人間同士としての信頼関係もとっても重要です。
最初のセッションは、無理にWATSUをしようと思わないで
お話しながらでもいいし、水の中で一緒に遊ぶだけでもかまいません。
「WATSUしよう」と思うと、その既成概念が働いて
柔軟で自由な対応ができなくなります。
例えば、必ずファーストポジションから始める、みたいな。
別に掌でヘッドを持つことから始めたっていいんです。
脳性麻痺はまさにその柔軟で自由な対応が求められます。

耳を漬けるのは慎重に

身を任せてくれるようになったら、徐々にヘッドを漬け込んでいきますが、
耳を漬けるときには慎重に。
一気に世界が変わりますから、
せっかく鎮静してきた意識が急変しかねません。

必要最小限で柔軟なヘッドサポートを

誰をWATSUするにも同じですが、ヘッドサポートは「安心感」と同時に「浮遊感」が大事です。
「人が支えている」のではなく、「水に支えられている」というイリュージョンです。
とはいえ、脳性麻痺の身体のアライメントの崩れ方は様々でしかも固まっています。
車椅子生活で身体が屈曲したままの場合が多いですから、
フット側を持ち上げようとは決してしないこと。ヘッドが沈みます。
フット側をなるべく漬け込んで、ヘッドの角度や漬け込み具合を調整します。

何をやるかではなく、何に気づくか

障害の度合いはまちまちですが、
「気持ちいい」「気に入らない」の意思表示は必ず伝わってきます。
これもどのWATSUにも共通ですが、動くことにとらわれずに、
「何が気持ちいいのか?」に最大限の注意を探りながら、
動作を変え、スピードを変え、サポートを変えてみてください。
関節を動かしてあげるようなマッサージやストレッチは効果的です。

舞踏運動に注意

不随意運動で、急激に手足や頭を動かすのを舞踏運動といいます。
これがある方とない方がいるのでセッション前に確認が必要です。
舞踏がある方には必ず身内の方にも一緒に入ってもらってそばに付いてもらいます。
多分5歳児なので大丈夫だと思いますが、
身体が大きい場合にはコントロールしきれずに沈める恐れがあります。
発作的に急激に(かなり乱暴に)手足を動かします。
まだ手足ならいいのですが、頭を急に動かされると、
お世話をしている人の鼻を折ることもあるくらいですので、
サポートには常に十分な注意が必要です。

舞踏よりももっとマイルドでゆっくりな不随意運動があることもあります。
からだをよじったり反り返ったり、手足を動かしたり。
これはもちろん止めずに、そのまま「ついていく」のが一番です。

「不随意運動」とはいっても、ボクは個人的に、
からだにはからだの「やりたいこと」があるものだと信じています。
それを意識しているかどうか、制御しているかどうかは関係なく。
WATSUで「会話」をする相手は「からだ」です。
それに集中するといろんなことが伝わってきます。
正しいかどうかとか、どういうメカニズムでとかは関係なく、
自分が直観で受け取ったメッセージをもとにセッションをすべきだと思います。
自分の直観が一番、自分の身体のメッセージに近いはずです。

そういう意味では、健常の子供よりも脳性麻痺の子供のほうが
よっぽど多くからだのメッセージの伝え合いをしやすいと思います。

ご家族への通知義務

WATSUで何をするのか?を事前にご家族に説明することが重要です。
できればご家族にまずWATSUを受けていただくのがベストです。

  • 浮力の筋肉への効果
  • 抵抗の筋肉への効果
  • 水圧の呼吸・循環器系への効果
  • 水の精神への効果

それ以上でも以下でもないこと。
そしてまた、自分が障害についての専門家ではないこと。
これを明確に伝えるのが大事です。

いろいろなWATSUをするのは間違いなく自分のスキルを高めてくれます。
それは、ケースバイケースのやり方が分かる、という意味だけでなく、
WATSU全体に対する意識とか、普遍の大原則を理解するのに役立ちます。
安全は第一ですが、常に耳を傾ける意識だけ忘れずに
直観を信じて果敢にチャレンジしてみてください。